【国際象牙調査官惨殺】密輸ビジネスの〝暗部〟に触れた報復か?

世界において、アンダーグラウンドなルートを通じて密輸されているものは、合法・非合法問わず多く存在する。有名なものでは覚醒剤や麻薬のような「ドラッグ」の類、あるいは近年増えつつあるものとしては「金」が知られている。これは金の取引価格が世界共通かつ非課税であるのが一般的なのに対し、日本国内での売買において消費税が設定されているため、外国で非課税の状態で買ったものを密輸した場合には、売却の際に上乗せされる消費税の額が丸々利益になるというのが大きな理由だと言われている。

そんな様々な密輸されるアイテムの中で、長年〝人気商品〟となっているのが「象牙」である。もともと高級品であった象牙は、それを目当てとした乱獲により、象の個体数を大きく減少させることとなった。そのため、ワシントン条約において、1990年に象牙の国際取引が原則禁止となり、その影響で一気に密輸マーケットの主役の一つに踊り出ることなった。

その人気は今も健在のようで、先月31日には中国に象牙を密輸しようとした疑いで、日本の象牙販売店で取締役を務める男が逮捕される事件も起こっているほどである。そんな象牙をめぐり、またきな臭い事件が起こったことで、世界で注目を集めているようだ。

CNNが5日に伝えたところによると、象牙やサイの角などの密輸の調査官として世界的な知名度があったエスモンド・ブラッドレイ・マーティンが、在住していたケニアで何者かに殺されたという。彼は同国ナイロビのカレン地区にある自宅で、複数回刺された状態で発見されたと、ケニア内務省の担当者は声明を出している。殺害した容疑者、さらに動機などは、まだ調査中であるとしている。

マーティンは、ミャンマーへの旅行から戻ってきたばかりで、殺された時には動物の調査結果に関するレポートを書いていたという。彼はアメリカ人であり、以前はサイの保護を行うための国連の特使をやっていたこともある。1993年に中国において、サイの取引を合法とするのをやめるよう交渉をしたことが知られており、数十年に渡り世界中を妻のクリッシーとともに旅をしながら、ラオスやベトナム、エチオピアやナイジェリアなどの密輸ルートを暴いていたという。

 

マーティンは昨年末、旅行雑誌『NOMAD』に掲載されたインタビューの中で以下のように、いまだに象牙やサイの角が、密漁者にとって魅力的であることを指摘していた。

「アジアにおけるサイの角は、ピーク時にはキロ当たり6万5000ドルに達していたが、今では着実に下がっており、(昨年の)1月には1キロあたり2万8000ドルになっていた。価格の下落は奇妙なことだが、それでも密猟者の数は減っていない。3人で密猟すればキロ当たり2300ドルを得るこができ、サイは平均3キロの角を持っていることから、6000ドル以上の金になる。それはいまだに大金だ」

そんなマーティンの死に対して、彼と度々協力していたケニアのNGO、SAVE THE ELEPHANTSは5日に「マーティンの死に深く悲しんでいる。野生動物に対する情熱を誰よりも持ち、几帳面な研究者でもあった彼の死は、彼を知るすべての人に大きな感傷を与えるだろう」と声明を発表。また、アメリカの自然保護を訴えるインターネットプラットフォームであるワイルドライフ・ダイレクトの研究者、パウラ・カフンブは、「マーティンがこうした自然保護の象徴であり、象牙やサイの角についての本当に熱心に調査を行っていた人物の一人であり、彼の働きにより、自然保護主義者の努力の方向を変えるのに役立った」とCNNの取材に対して語るなど、アフリカの自然保護に関わる人々の間には衝撃が広がっているようだ。

もともと、マーティンのような独立した調査官が象牙やサイの角などの調査をやることは「極めて危険だ」と言われている現状があるという。国際自然保護連合(IUCN)のアリ・カカは「個人情報が公開されている現在の世の中で、バックアップなしにこうした活動をすることは、以前に比べて危険度は増しており、ハードルはかなり高いものとなっている」と語っている。

果たして、マーティンがどのような目的の下、誰の手によって殺されたのか。それはこれからの警察の捜査で明らかになるだろうが、少なくとも象牙をめぐる闇社会の動きに危険極まりないものがあるのは確かなようだ。

(文◎コリス東条)