【被害額1〜63億円】土地取引で騙す〝地面師〟が暗躍する理由とは

警視庁捜査2課は、偽造された印鑑証明書などを使って神奈川県横浜市の土地を無断で移転登記しようとしたとして、電磁的公正証書原本不実記録未遂や偽造有印公文書行使などの疑いで、札幌市の職業不詳・大村幸弘容疑者(75)と永田浩資容疑者(53)ら、男3人を逮捕した。

大村容疑者らは、平成25年3月上旬ごろ、横浜地方法務局青葉出張所に偽造の印鑑登録証明書や委任状などを提出し、横浜市青葉区の男性が所有する土地について、虚偽の移転登録をしようとした疑いが持たれている。法務局の職員が書類の偽造に気づき、登記はされなかったという。

捜査関係者によると、逮捕された3人は、他人になりすますなどして土地や建物を乗っ取る、いわゆる〝地面師〟グループのメンバーで、大村容疑者が所有者になりすます役をしていたとみられている。調べに対し、大村容疑者は容疑を認めているという。警視庁捜査2課は、このグループが不動産会社から土地の売買代金として1億円以上をだまし取った疑いもあるとみて、詐欺容疑でも調べを進めているという。

また、大村容疑者と共に逮捕された男2人については、昨年11月、大手ホテルチェーン「アパグループ」の関連会社「アパ」(金沢市)との土地取引をめぐり、偽造の本人確認書類を使ったとする偽造有印公文書行使容疑などで同課に逮捕され、その後起訴されている。

書類を偽造するなどして土地の所有者になりすまし、土地や不動産を無断で売買する〝地面師〟の暗躍は、はるか以前より枚挙にいとまがない。

先にも述べた通り、昨年11月に起こった、東京・赤坂にある一等地の土地取引をめぐる、地面師グループがアパホテルのグループ会社から売却代金として約12億5000万円をだまし取った事件は、ご記憶にある読者も多いだろう。また、昨年10月には、住宅メーカー「積水ハウス」が東京・品川にある土地売買をめぐり、地面師グループに63億円をだまし取られたとして警視庁に告訴状を提出し、受理されている。

なぜ、地面師たちは大手企業を相手に、これほど多額の金を騙し取ることが出来るのだろうか……。

公文書偽造問題に詳しいジャーナリスト・竹村明氏によると、「日本の身分証明制度に問題がある」と警告を発する。

「地面師の手口としては、書類を偽造した上で本人になりすますケースと、書類自体は本物を使用した上で本人になりすますケースと、2種類があります。どちらにせよ、日本では公的な身分証明書制度が確立されていないことが問題と言えるでしょう。本人確認として、写真付きの運転免許証やパスポートなどが使われますが、あくまで本人確認の代用として使われているに過ぎません。土地取引で言えば、不動産会社が、土地の売買を持ちかけてきた人間が本当に所有者本人であるかといった点について、信用するための材料の一つでしかありません。特に高齢者であれば、運転免許証やパスポートを所持していない場合もあるので、なりすましが出来る可能性も高まります。土地などの高額な取引が出来てしまう〝本人確認〟の重要性をもっと高めるべきです」

また、役所の「偽造対策」が不十分であるとも話す。

「土地取引の場合、法務局に提出する書類は、印鑑登録証明書と登記書類に押された実印だけのケースが多いです。印鑑登録証明書などの書類は、偽造対策として模倣しにくい柄や特殊な印刷が施されています。しかし、それらは市区町村単位で独自に作られているため、書類を確認する側の法務局が偽造を見抜けないケースもあるのが実情です。それらのことを地面師グループは知っており、レーザープリンターなどで偽造し、こうして実際に騙すことが出来ているのです」(前出・竹村氏)

大手企業を相手に、いとも簡単に数十億もの金をだまし取ってしまう〝地面師〟たち。彼らが凄腕であると言うべきか、はたまた、日本の制度や対策が不十分なだけなのか…。彼らが暗躍できなくなるように対策される日が来ることを願う。

(文◎朝比奈ゆう)