【カヌー薬物混入事件】余罪だらけの容疑者に下される〝断罪〟とは?

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを目指していたカヌー日本代表の候補選手が、ライバル選手の飲み物に禁止薬物である筋肉増強剤メタンジエノンを混入。これによってライバル選手の体からは禁止薬物が検出され、資格停止処分となっていた事件で、日本カヌー協会は「真実」を公表し、衝撃が広がっている。

同連盟の発表によると、薬物混入事件が起きたのは、昨年9月に石川県小松市で開催された日本カヌースプリント選手権大会の期間中だったという。大会以前、カヌー日本代表候補の鈴木康大(やすひろ)選手(32)は、他競技の選手がメタンジエノンでドーピング違反になったことを知り、「他の人に入れたらどうなるんだろう」と考え、海外遠征中の同年8月中旬にインターネットでこの薬剤を購入。メタンジエノンとは、筋肉増強剤とも言われるたんぱく同化薬の一種であり、摂取することで体内のテストステロン濃度が高まり、筋肉が増強されやすい環境になると言われているものである。

メタンジエノンを入手した鈴木選手は、これを大会期間中に、千葉県にある実家を経由して会場近くの宿舎に送り、その後、宿舎で錠剤を砕いて粉状に加工。犯行当日、カヤックシングル200メートルが行われる会場に持ち込み、出場各選手が水分補給のために置いていた飲み物ボトルの中から、小松正治選手(25)のものを選んで混入したという。同連盟は、11月17日、日本代表合宿で鈴木選手を含む参加者らに、一部の選手から薬物の陽性反応が出たことを報告。すると、間もなく鈴木選手は「家庭の事情で合宿を抜けたい」と申し出をし、その後「相談したいことがある」と連盟幹部へ電話。直接面会した際に「私がやった。私に愚かな点、至らない点があった」と打ち明けたという。鈴木選手は、「本当に(陽性反応が)出るとは思わなかった。怖くなった」「ライバルの記録が伸びていて、このままでは自分が代表になれないと思った」と話しているという。この事件を受けて、鈴木選手は8年間の資格停止処分を受けることとなった。

ドーピング検査で陽性反応が出た選手は、これまでにも多く存在した。しかし、〝他人に薬を盛った〟という事例は、どうやら日本初の事例のようである。スポーツマンシップにのっとっていないどころか、道徳的に許されない行為であり、特に同じ日本人としては信じがたい事件である。

鈴木選手は、自身が代表を務めるスポーツクラブを、元カヌー選手の妻と経営しており、二児の子どもにも恵まれ、マイホームも建て、絵に描いたような幸せな選手生活を送っていたと見られている。しかし、一時期、引退していながら、そこから復帰を遂げているのだが、そういったことに対して様々なプレッシャーがあったことは想像に難くない。「出来心からやってしまったのか…」と思いがちだが、どうやらそうではないようだ。というのも、鈴木選手には余罪があることが判明しているのだ。

薬物を盛られた小松選手は、これまでにも自分の位置を確認するために練習で使用するGPSが盗まれたり、カヌーを漕ぐパドルにヒビを入れられたりするなど、数々の嫌がらせを受けてきたことを発表しているが、鈴木選手はこれらについても「自分がやった」と説明している。他にも、約8年前から、自分よりランクが上のトップ選手5~6人に同様の嫌がらせを行っていたことを認めていることから、同情の余地は一切無く、救いようのない人物であると言えるだろう。

これまで、逮捕こそされてこなかったが、傷害罪、窃盗罪に問われてもおかしくないことを平然としていたのである。

学生時代には華やかしい成績ばかりを残し、トップを走り続けてきた鈴木選手。ネット上では、過去にやっていた「YASU BLOG」という公式ブログが掘り起こされており、そこには以下の記述があるという。

「社会人アスリートとして仕事・競技のどちらも成果を残すことはできませんでした。仕事に関していえば、自分は会社のために十分に貢献できていなかったし、競技では自分の中でベストを尽くしてやってきましたが、目標まで手が届きませんでした」という反省の弁と共に「今までの意識や気持ちでやっていても、また変わらない結果になると思います。ここまでの決断をしたからには、意識や行動にも大きく変化をつけていく覚悟です。」とある。

その〝覚悟〟とは何だったのか。その言葉が意味するものが、今回の〝薬物混入〟ではないことを、願うばかりである。

(文◎朝比奈ゆう)