【貧困現場探訪②】〝逃亡ヤクザ〟をも受け入れる西成は優しい街なのか?

〝日本三大ドヤ街〟(※ドヤ=簡易宿泊所)のひとつである大阪市西成区の通称「あいりん地区」を舞台にしたシリーズ連載・第2回。今回取り上げるのは、40代という若さでこの街にたどり着いた元ヤクザの現在の姿を追った――。

社会に居場所を失った人々が「最後に流れ着く街」と住民からも呼ばれる大阪市西成区あいりん地区。住人によって「西成」と呼ばれるこの街には、様々なワケありの流れ者たちが住み着き、ギリギリの生活を送っている。

そんな社会から追われ、逃亡してきた人々の中には、ヤクザ社会から追われた元アウトローも数多い。

一般社会からよりも厳しいといわれるヤクザ社会を追われた人間は、この街でどのような暮らしをしているのか?

様々な規則・しきたりが厳しいヤクザ社会を経験した者であれば、一般の生活は簡単なのではないかと思われるかもしれない。しかし、そう簡単にはいかない現実がある。

その理由のひとつに、ヤクザに憧れる多くの人間は「まっとうな仕事をしたくない」と考えがちだということが挙げられる。また、刺青を入れて自ら社会から離れることを望んでいることもあるだろう。

百瀬(仮名・40代)もまた、そのヤクザ社会を追われた人間の一人である。今はこの街で生活保護を受給しながら、日雇い仕事で馬券を買いに行くことが出来ないドヤ仲間から、馬券の注文を受けるなどの細かい小遣い銭をもらって生活をしている。

この街では40代とまだ若い部類の百瀬がここに流れ着いてきたのは、今から7年前のことだ。ある理由からヤクザ社会で重い処分を受けた百瀬は、しばらくすると持ち金をすべて使い果たし、その後は車も、家財道具も、持っていたブランド品もすべて投げ売った末に、この街に流れ着いた。

土地勘も知り合いも当然なかったが、それでも百瀬はこの西成で衣食住に困ることはなかった。

それは、「センター」と呼ばれるあいりん労働福祉センター脇の手配師とたちの紹介によって、寮付きの仕事場に入ることが出来たからだ。

その仕事とは、「土工」。つまり、土木作業の中でも誰でも出来る仕事である。契約期間は3カ月、この仕事のために、百瀬はしばらく西成を離れることになった。とりあえず野宿は免れて人心地ついた百瀬だったが、その環境は最悪だったという。食事の質は最悪で、雨が続けば仕事にはならず、それでも寮費だけは引かれるため、給料日が来ても手元に2万円しか残らなかったという。

日々のタバコ銭にすら事欠く百瀬だったが、ここで知り合った男から西成での暮らし方を学んだという。

「福祉アパートに住めば、そこの管理会社が役所に同行して、生活保護の申請業務を教えてくれる」

「行政に申請すれば当面の生活費として少々の金銭が支給される」

「ドヤ代は、それらを申請している間は請求されない」

「食事は行政からの金銭で賄い、それで腹が満たない場合は毎日の炊き出しに行けばよい」

これら西成での生き方を学んだ百瀬は、3カ月契約の仕事から逃げると、この街に戻ったのだ。

貧困ビジネスの全国モデルケースとなっていて、全国各地から怪しげなNPOの見学者が絶えないこの街で、福祉アパートを探すのは簡単だった。前回でも触れたが、この街に点在しているドヤは生活保護受給者大歓迎なのだ。なぜなら、普通に家賃を収めてもらうより、絶対に支払いが滞ることのない行政から金を受け取っている人間であれば、取りっぱぐれがないからである。

生活保護の申請から保護決定までは、生活保護法に定められている通り2週間。これまでは明日の生活の処し方すら定まっていなかったが、保護費を受け取るようになってからは、生活に余裕が出来てきた。

こうして彼の、西成での生活は始まった。

そんな百瀬は、ヤクザだった頃から、唯一サウナ通いを娯楽としていた。

しかし、百瀬の身体には刺青がある。そこから身元がバレる可能性もゼロではない。西成の近くには銭湯があるものの、逃げてきた百瀬はそのような人目に付く場所に行くことはできない。そのため、狭いドヤの風呂場で我慢している。好きなサウナに行くことは出来ない。

百瀬と同じように、ヤクザ社会から追われた人間も、ドヤには数人住んでいた。しかし、お互いに過去を詮索することはなく、気ままに生きているという。

時おり、この街で大きなシノギとなっている覚醒剤の配達などを頼まれることもある。しかし、百瀬は過去に同じ罪で捕まっているという理由から、断っているという。覚醒剤のワンパケ0,03グラムを人に届けて百瀬が受け取るのは3000円。この報酬では割に合わないからだ。

覚せい剤所持で逮捕・起訴されたら、生活保護は当然打ち切られる。刑が確定するまで生活保護費の支給を停止されて、その後の処分によっては廃止されることもある。

しかし、ドヤ仲間の中には、生活保護をもらいながら違法なことに手を染めている人間も数人いるという。

ワンパケから微量の覚醒剤を抜き取り、つまり1つ水増しするなどして、手取りを増やしたりしているのだ。これを、数を重ねれば、バカにできない金額にはなる。

日々の生活に困っているわけではないが、先の見通しはまったく立たない。こんなシノギに手を出す輩が後を絶たない。それが、「最後に流れ着く街」と言われる所以なのだろうか?

橋下徹元大阪市長が始めた「西成浄化作戦」によって、かつてこの街の名物だった泥棒市は、警察の厳しい巡回などによってほぼ壊滅した。それにより、シャブの売人も街角に立つことはなくなった。

だが、それは表向きである。

実際に覚醒剤の売買は地下に潜っており、他の非合法な品物も、伝手をたどれば買えるということに変わりはない。

駅前に大型ホテルの建設が予定されるなど、表向きは変わりつつある西成。しかし、街自体の本質が変わるには、もうしばらくの時間が必要だろう。

次回は、この街では珍しい「勘違いしながらも夢を追う男」を紹介し、そしてこの街が抱えるいくつかの問題に触れたいと思う。

(文◎RNO編集部)