【貧困風俗嬢シリーズ①】30代主婦が「風俗を抜けられない」理由

東京・新宿駅から徒歩5分ほど。繁華街を抜けたところに、その雑居ビルはある。そのビルのうち一室が、今回話を聞いた神田美枝子さん(仮名)が在籍する派遣型風俗店、いわゆるホテヘル(ホテル型ヘルス)の事務所兼待機所となっている。

現在39歳の美枝子さんは、肌が少し浅黒く、黒いロングヘアーを後ろで一つ結びにしている女性である。白い無地のTシャツの上にピンク色の薄手のカーディガンを羽織り、膝丈の白いスカートの下には肌色のストッキングを履いている。肌の色、ヘアースタイル、服装、それぞれがどこかちぐはぐに感じられ、きれいな洋服に反して清潔感は感じられない。

美枝子さんは2日前にここのホテヘルで働き始めたばかりの〝新人〟ではあるが、実はこの道10年にも及ぶベテラン風俗嬢である。

千葉県にある商業高校を卒業した美枝子さんは、すぐに地元の運送会社に就職。すると、19歳で職場の同僚だった3歳年上の男性と結婚し、数年のうちに2人の子供にも恵まれた。トラック運転手として働く夫の給料は、手取りで30万円ほどだった。

その後、子育てのために専業主婦になった美枝子さんだったが、当時の生活を振り返ると、決してお金に余裕があったわけではないものの、それでも生活費をうまくやりくりし、ごく普通の生活を送っていたという。

「普通の生活でした。それほど贅沢とかは出来なかったですけど、なんて言うんですかね、本当に普通の生活だったんです。将来のお金のこととか心配は多少ありましたけど、正直、あんまり先のことまでは考えていませんでした」

しかし、美枝子さんが29歳の時、その〝普通の生活〟は一変した。夫が仕事中に事故を起こし、運送会社をクビになったのだ。なんとかすぐに再就職したものの、前の職場に比べて給料は10万円ほど下がったという。

「ちょうど子供たちにお金がかかるようになってきた時期で、夫の給料が一気に下がってしまったんです。それで最初、私は昼間のパートを始めました。でも、子どもの食費や車のローンがあって、すぐに生活費が追いつかなくなったんです。パートだと働けても9時から16時まで。時給は900円でしたから、フルで働いても家計は赤字でした」

生活費の捻出すら厳しくなっていく中、さらに、夫が通勤のために購入した車のローンや維持費も大きな負担になるようになったという。

所持していたのは、数年前に総額120万円で購入した国産の中古車だ。しかし、ほぼフルローンで購入したため、返済額は毎月2万円。そこに、保険料や駐車場代やガソリン代など、毎月最低でも3万円が加算されているという。車の処分も検討したが、美枝子さんの自宅付近は交通の便が悪く、夫が仕事へ行くにはバスと電車、モノレールを乗り継ぐ必要があり、通勤時間が倍増してしまう。さらに、購入時の時点で5年オチだった車は、仮に処分したとしても数十万円にしかならないため、ローンの残債額を大きく下回ってしまうのだという。これらのことが、美枝子さんが風俗で働こうと考えるきっかけになった。

「実は若い頃、半ば興味本位で、短期間だけ風俗店で働いていたことがあったんです。すっかり忘れていたんですけど、毎日お金のやりくりを考える中で、それを思い出したんです。パートに比べれば明らかに稼げると思って、すぐに店を探し始めました」

それから10年。いくつかの風俗店を渡り歩いた美枝子さんは、新宿のこのホテヘルにたどり着いたという。現在、16歳になる長男は県立高校に通っており、14歳になる次男も高校進学を希望しているという。

「正直、(風俗を)辞められる目処はたっていないですね。働いても働いても、生活費と子供たちのお金に消えていくので、貯金が出来ているわけではないですし。夫も今以上に給料が上がる目処もない。いつまで続けられるか分からないですけど、少なくとも今は辞められる状況ではないですね。年齢はおばさんですけど、何よりも普通のパートとか比べれば、多く稼げますからね。効率がいいんですよ」

ごく普通の生活を送っていた主婦が、夫のクビをきっかけに風俗の世界へと足を踏み入れてしまう。しかし今、こんな事例は他人事とは思えないほど、ざらにある。

今後、夫の収入増が見込めない中、美枝子さんが〝効率良く稼げる風俗〟を辞められる日は、見えてこない。

(文◎朝比奈ゆう)