【ネカフェ難民4000人】〝完全雇用達成〟に隠れた貧困の実態

先月26日、東京都は、インターネットカフェなどで夜を明かす利用者の実態について、初となるアンケート調査を行い、結果を発表した。その結果がおぞましいと話題になっている。都が行ったアンケートからは、現在のネットカフェ難民の総数が分かり、隠れた〝住居喪失者〟の貧困実態が浮き彫りとなったからだ。

このアンケート調査は、2016年11月から2017年1月の期間で、ネットカフェやマンガ喫茶、サウナなど都内502店(有効回答数222店舗)を対象に実施したものだ。寝泊まりをしていた946人のうち、25.8%が「住居がない」(=住居喪失者)と答えており、うち75.8%は「不安定就労者」(労働派遣者+契約社員+パート・アルバイト)であることが分かった。

住居喪失者のうち、いちばん多い年齢層は38.6%の30代。次いで多いのが28.9%の50代だった。彼らの月収は「11~15万円」が46.8%と最多で、また住居を確保できない理由について、6割が「入居に必要な初期費用が準備できないため」と回答した。

さらに、都のまとめによると、ネットカフェなどをオールナイトで利用する約15,300人(概算)のうち、「住居喪失者」は東京都全体で1日あたり約4,000人、そのうち「住居喪失不安定就労者」は約3,000人もいたという、驚くべき現状を突きつけられたわけだ。

そんな、「住居喪失者」たちの状況を探るべく、筆者は都内の某ネットカフェに足を運んだ。

東京・A区にあるネットカフェを訪れてみて、まず驚かされたのが、ホテル並の設備である。フロアは、ドアのある鍵付き完全個室ブースで占められており、各フロアには有料の洗濯機・シャワールームが完備されているのだ。シャワールームの利用料は、シャンプーやボディーソープ、タオル、バスマット、ドライヤーなどの利用料を含めて、およそ300円という安さである。都内で銭湯に行くよりも安いわけだ。

また、各個室に1台づつ設置されているパソコンは、インターネットカフェというだけあって、高速インターネット・オンラインゲーム対応のハイスペックPCであり、話題の映画や海外ドラマ、アニメ、Vシネマが見放題となっている。もちろん、ドリンクも飲み放題。ほかに、インスタント食品やスナック菓子、Tシャツや下着も、ほとんどが200円ほどで格安販売されているのである。その他、カラーコピーやFAX機、フリーWi-Fiも完備しており、24時間外出自由だ。こうした設備だけを見てみるだけで、ネットカフェで何不自由なく生活できることが分かる。

気になる利用料金だが、平日であれば、30分200円、3時間1,000円、深夜帯(21時頃~早朝6時頃)の8時間パックで、1,800円程度が相場と言えるだろう。新宿・歌舞伎町などの大繁華街には、長期利用する客も多いことから、「ロングステイ・長期滞在コース」を設けているネットカフェも存在する。1日~14日の連続滞在で1日2,400円、15日~29日の連続滞在で1日2,160円、30日以上の連続滞在で1日1,920円という破格の料金である。さらには、郵便物受取代行や、住民票登録まで行っており、ネットカフェを住まいとする人たちに向けたサービスまで存在する。

ここで30日間滞在した場合、1カ月の利用料金は57,600円。それにシャワールーム代や食費を足したとしても、電気代・水道代・インターネット料金などは支払わなくて済むため、同じ立地条件で1人暮らしをするよりも安上がりであることが分かる。また、賃貸物件を借りるとなると、初期費用や更新料がさらに加わり、2年契約の場合なら満期にならずに解約すると違約金が発生するなど、まとまった額のお金が必要になってくる。まさに、そういった、まとまった額のお金が用意できない経済状況の人が、〝住居喪失者〟となり〝ネットカフェ難民〟となっているのである。

こうして設備や利用料だけを見れば、ネットカフェに居着いてしまうことに、納得できなくもない。しかし、実際に訪れてみると、その環境は決して、心身共に衛生的とは言いがたいことがよく分かる。

基本的に窓が少ないため、ネットカフェは日中と言えども、一歩足を踏み入れれば、どこか薄暗い雰囲気が漂っている。さらに、ほぼ全ての個室が喫煙可でありながら、個室の天井は空間続きとなっているため、フロア全体の空気には煙草の臭いが染みつき、全員の客が毎日きちんとシャワーを浴びていたとしても、どこからともなく異臭が漂ってくるのだ。そして、それら一切の臭いを消そうと、各個室の足下には芳香剤が無数に置かれているのだが、それがまた強烈な異臭の飛散を加速させているのである。基本的には静かな空間ではあるものの、誰かのいびき声や電話で話すヒソヒソ声、日中にもかかわらず静かに鳴り続ける目覚まし音など、どこかで何かしらの生活音が聞こえている。決して好んで住みたいと思える環境ではないと言えるだろう。

筆者が訪れたネットカフェで暮らしている男性に話を聞いてみた。かつては、工事現場作業員として働いていた大谷さん(仮名・50代男性)は、今から3年前に派遣切りに遭って以降、〝住居喪失者〟となり、以降はネットカフェを転々として暮らしているという。

「派遣切りに遭ってからは日雇いの仕事をしてたのですが、収入が安定しなくて、家賃が払えなくなったんです。それ以来、ここで暮らしています。今は、毎朝5時になると駅前にいる手配師のところに行って、日雇いの現場仕事をもらいにいくんです。でも、仕事がもらえない日もあります。完全にその日暮らしの状態ですよ。給料をもらっても、生活費に消えてしまいますから、貯金なんて出来なやしません。初期費用が払えないから、賃貸物件も今は借りられないですね。でも、ずっと土建業しかやってこなかったから、今さら他の仕事は出来ないんですよ」

大谷さんは、今も時間がある時には仕事探しを継続している。しかし、結局は日雇い派遣の仕事しか見つからず、現状打破の糸口は掴めないでいるという。

同じく4カ月をここで過ごしてきた山崎さん(仮名・30代女性)も、貧困から抜け出せずにいた。

「地方でアルバイトをしていたんですけど、家賃が払えなくなって、夜逃げ同然で歌舞伎町に来ました。今は、出会い喫茶や風俗で稼いでいます。でも、家が借りられるまでの貯金は出来ていないです。家がないから昼間のパートの仕事も出来なくて、まさに〝負の連鎖〟ですよ。収入が安定しない限りは、家を借りるのも不安だし怖いです」

ネットカフェには、大谷さんや山崎さんのように、負の連鎖によって〝住居喪失者〟から卒業できないでいる人が少なくない。

冒頭に挙げた、〝ネットカフェ難民4000人〟という衝撃のアンケート結果発表から6日後の1月30日。総務省は、ある雇用統計を発表した。それは、「労働力調査(基本集計)平成29年(2017年)平均(速報)結果」である。それによると、2017年の完全失業率は前年に比べて0.3ポイント下がった2.8%、完全失業者は18万人減少し190万人であった。完全失業率が3%以下とは、つまり、統計上の〝完全雇用〟を達成したというものだった。これにより、「アベノミクスの成果が出てきた」との見方も出てきていると専門家は語る。

一方で、非正規従業員の推移を見てみると、男性は4万人の減少、女性は16万人の増加しているのがわかる。雇用・経済に詳しい専門家は、「〝完全雇用〟の裏側には、表に出ない貧困が隠れている」と話す。

「完全失業率についてですが、前提として、総務省が管轄するハローワークへ相談に通うなどして、仕事を探しているけれど職に就いていない者を『完全失業者』として計算しています。つまり、職を探しているけれども、生活のために週に1時間だけアルバイトをした人は、統計上『就業者』とみなされるのです。また、再就職を諦めた人は、『求職意欲喪失者』とみなされ、統計から除外されます。日雇い派遣で食いつないでいる人や風俗で働いている人など、国のセーフティーネットから外れた人たちはカウントすらされていないのが実態です」

雇用改善に力を入れているアベノミクス。その成果が、統計上の数字ばかりで語られる中、ネットカフェでは、明日に希望が持てないまま眠りについている人がいる。ネットカフェは、そんな貧困にあえぐ多くの人たちを救う、〝セーフティーネット〟となっているのが実態である。

(文◎朝比奈ゆう)