【末端価格5億円】分子構造を変更させた覚醒剤製造業者を麻取が摘発

今月21日、近畿厚生局麻薬取締部(通称:キンマ)は、化学反応させることで覚醒剤に変えられる液体を大量に所持し、覚醒剤を製造しようとしたとして、大阪市鶴見区鶴見の工場経営者・横谷勝己容疑者(59)を覚せい剤取締法違反(製造予備)の疑いで逮捕したと発表した。

横谷勝己容疑者は昨年12月、経営する機械工作工場の敷地内で、化学反応によって覚醒時に変えられる液体約15キロをペットボトルに小分けにして保存し、覚醒剤を製造しようとした疑いが持たれている。液体の化学構造の一部を変えれば覚醒剤約7.8キロ分(末端価格5億円)を製造でき、そのための器具や薬品も工場内で見つかったという。同取締部は、横谷勝己容疑者の認否については明らかにしていない。

この押収された液体は「t-Boc メタンフェタミン」を呼ばれるもので、昨年12月に「指定薬物」となり、所持などが禁止されていた。この液体が押収されたのは、全国初とのことだ。横谷容疑者はすでに覚せい剤所持でも摘発されており、自宅からは230本の注射器も押収されていることから、自身で覚醒剤を製造・密売していた疑いも浮上しているという。

本誌解説員でジャーナリストの竹村明氏は、今回の摘発をこう読み解く。

「ポイントは、押収された薬物が『t-Boc メタンフェタミン』だったという点です。そもそも、メタンフェタミンとは、いわゆる覚醒剤のことです。それに、通称〝t-Boc〟と呼ばれる『基』(分子の一部)を足したものが『t-Boc メタンフェタミン』です。つまり、別の物質を足して分子構造を変えたことで、法律で定義された覚醒剤ではなくなります。摂取しても覚醒剤のような活性作用はありません。指定薬物のため『薬事法違反』には問えますが、覚醒剤ではないため、本来は所持だけでは覚せい剤取締法違反の容疑はかけられないのです」

覚醒剤などの違法薬物は、分子構造を表わす化学式によって定義されているため、その化学式が一部でも異なれば、違う物質とみなされるのだという。違法薬物の製造業者は、それを利用して、法の網をかいくぐろうとしているのだ。

「しかし、『t-Boc メタンフェタミン』は、その成り立ちからも分かるように、簡単な加工をして再び分子構造の一部を変化させれば、覚醒剤に変えることができます。今回は、加工の為の器具や薬品が見つかったことに加え、『t-Boc メタンフェタミン』が、簡単に覚醒剤を作れる物質であると解釈されたことにより、単に『薬事法違反』で終わらせず、『所持=覚醒剤を作ろうとした』として、覚醒剤取締法違反(製造予備)の容疑で逮捕するにいたったのです」(前出・竹村氏)

違法薬物の摘発をめぐっては、指定薬物として規制をしても、その化学式の一部を変えることで法逃れすることができるのだ。つまり、「マトリ」と「業者」の〝いたちごっこ〟が、以前より続いているという。

「〝脱法ドラッグ〟や〝危険ドラッグ〟などとして出回った『α-PVP』という薬物がありましたが、これはまさにその代表例です。ほんの一部が異なるだけで、化学式はほぼ覚醒剤と同じ、作用も覚醒剤と似ていました。しかし、一部の構造が違うがために当時は規制されておらず、〝脱法ドラッグ〟として出回っていたのです」(前出・竹村氏)

今回の摘発は、押収された物質が覚醒剤ではないものの、覚醒剤が安易に作れることから、覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕したということで、マトリが一歩上手だったと見て良いだろう。しかし、違法薬物が化学式で定義されている以上、これからも「マトリ」と「業者」の〝いたちごっこ〟は今後も続くのだろう。

(文◎朝比奈ゆう)